錦織良成監督の「思いとこだわり」

「たたら侍」ポスター

「たたら侍」の始まり:HIROさんとの出会い

錦織良成監督の前作『渾身』の主演を務めた青柳翔(伍介役)の所属事務所LDHの社長 EXILE HIROは、無名の新人をオーディションでいきなり主役に抜擢した錦織良成という人間に興味を抱いたという。

初めての出会いで互いに意気投合した二人は、直ぐさま映画の企画に取りかかる。その後、幾つかの企画の中で、EXILE HIROが初のプロデュース映画として決断したのが本格派時代劇『たたら侍』であった。

本作の企画にあたり、その根幹となる「たたら」の取材にEXILE HIROと錦織良成監督は何度も島根を訪れた。そして改めて日本の素晴らしさに気づくと同時にその地の独特の風土、文化を感じ取っていく。二人三脚で始まった企画は、その後、多くのスタッフやキャスト、思いに共鳴した仲間や協力者を巻き込んでいくことになる。こうしてこだわりの映画を生み出すべく撮影がスタートしたのであった。

錦織良成監督の思い

なぜ「たたら」?なぜ「侍」?

錦織監督の写真

世界情勢が不穏な今だからこそ「真の武士道」を描く必要があった。戦国時代の小さな「たたら村」には世界の縮図が描かれている。世界中に起こっている未解決の問題や苦悩を、この作品では小さな村を巡る戦いの中で描いたのである。

秘伝の匠の技(わざ)たたら吹きによって造られる特別な鋼という利権を争う様は、まさに中東の石油資源を争う世界情勢を連想させる。武力をもって村を守ろうとして、それ以上の武力によって危機的な状況を招いていく様。まさに現代の世界情勢の縮図がこの物語には描かれているのだ。

錦織良成監督は故緒形拳さんに「映画で一番大切なことは今を描くこと」と言われ続けたという。その言葉を忠実に守り、時代劇に今を映し出した本作は錦織良成監督の渾身の一作であることは間違いない。

この映画の根底にあるのは日本の「ものづくり」への深い誇りとリスペクト。製鉄技術「たたら吹き」を受け継ぐことを宿命づけられた青年の姿を通して“真の侍とは”というテーマを問いかけるのみならず、世界が抱える問題をも物語に内包し描いていることが本作の独自性といえる。

熟練の技術により、生み出される純度の高い鋼で作られた日本刀――
それは野蛮な流血の道具ではなく、日本人の「お守り」として作り続けられている。

“本当の強さとは何か”を改めて問いかける。戦国の世にあっても、淡々と鋼づくりを続け、伝統の技を命がけで守る姿も“真の侍”ではないか。自然と共に生き、技をつなぎ、おのれの宿命を受けとめながら、ありのままに生きていく。そんな高潔な生き様を描いている。

出雲勾玉 錦織良成監督インタビュー

今の、日本・日本人

錦織監督の写真

日本人の真のメンタリティーは世界の人たちには伝わりにくいと感じていました。
日本製品は世界で認められ、世界中に広まった今でも、それを生み出した根元に日本人の真のメンタリティーが潜んでいることをなかなか気付いてもらえないと、海外での映画撮影や海外の映画祭に行った時に感じていました。

例えば、日本人のメンタリティーを代表するものとして、新渡戸稲造の著書「武士道」があります。欧米では、今でも「武士道」は隠れたベストセラーと言われていますが、やがて日本映画やドラマの中に刀を振りかざす戦闘員として侍の姿が登場すると、そちらが侍のイメージとして世界に定着していきました。それ以降、欧米では侍への理解は深まっていないように思います。

多分、我々ですら真の侍への理解は低く、武士道によって紹介されたような日本人の本質が分からなくなっているのかも知れません。

日本人の死生観・価値観

古来より日本人は自然と共に生き、自然に還るという死生観を持ち、祭りごとだけでなく普段の生活の中にさえも神を見い出し、自然に対する畏敬の念を持っていました。この日本人のメンタリティーは古くて新しい。まだまだ捨てたもんじゃないと思っています。自分も含めて忘れつつあるけど、今こそ改めて見直すべきなんだと考えます。

日本人であることを心から誇れるように!

そんな日本人のメンタリティーが、現在、世界の抱えている大きな問題を解決する糸口になるのではないかとも考えました。それがこの映画を企画した切っ掛けでした。

日本を世界に伝え理解してもらうのと同時に、日本人が日本を再発見するという意味において、単純にウケそうだから時代劇ということでなく、『たたら侍』では本質的な日本に切り込むことで、日本人であることを心から誇れるエンタテインメント映画にしたい。

そして世界の人にあらためて興味を持ってもらいたい。それが若い世代の皆さんにも新しい感覚で伝わってほしいと期待しています。

ハリウッド映画に負けない!

とかく本格的な映画といえば、欧米を代表してハリウッド大作を思い浮かべますが、真の日本の心を描くダイナミズムは、決して欧米のエンタテイメント作品に引けをとるものではないと思っています。

今回、エグゼクティヴ・プロデューサーを務めてくれたHIROさんとの出会いは、
そういう思いを具体にできると確信できた大きな出来事でした。HIROさんと二人で話しているとワクワクして発想や夢が広がりました。

「本物を作り続ける」

この映画の根源である「たたらの伝承」というモチーフは、まさにHIROさんと二人で目指す本物を作り続けるというプロジェクトの第一歩として、また、先人たちが本物を作り続けてきた証として、大変、意味のあることだと思っています。それは「たたら」に限定されたものではなく、私たちが気づけないだけで日本全国に存在していると思います。

錦織良成監督のこだわり

こだわり続けるという信念から本格派時代劇が生まれた

錦織監督の写真

「新しいことは何もしていない。先人の映画作りを見習って、こだわり続けただけ」とは撮影を終えた時に錦織良成監督が発した言葉である。本作の舞台裏を覗くと、その言葉を裏付けるこだわりが節々に窺える。

スタッフ&キャスト布陣へのこだわり

美術監督の池谷仙克、撮影の佐光朗、照明の吉角荘介など手練れのスタッフや、津川雅彦、
奈良岡朋子、山本圭、高橋長英、笹野高史、品川徹といった日本映画の原点を知る名優たち、宮崎美子、甲本雅裕、豊原功補、でんでんなどの、いぶし銀のバイプレーヤー勢が脇を固め、それらのベテラン俳優陣を相手に一歩も引けを取らず主演の青柳翔やAKIRA、小林直己らといった若い俳優たちが存在感あるスクリーン映えする演技で大暴れしているのだ。映画ファンならずとも見ごたえ十分だ。

本格的な村のオープンセットや北国船へのこだわり

また、出雲大社の遷宮も携わる地元の宮大工、材木問屋や建設会社などの協力を得て、近代までたたら操業を行っていた島根県奥出雲地方に本格的な村のオープンセットを建設した。

作り物の領域を超えたクオリティーで中世の「たたら村」を見事に復元させ、さらには伍介が北国船で旅をするシーンには、実物大に復元された木造船を実際に海に浮かべて空撮するなど、臨場感あふれるシーンを次々と生み出した。

フィルム撮影へのこだわり

また、日本映画作品では少なくなったフィルム撮影にこだわり、近年再びハリウッド大作で使用されることも多くなっているPanavisionカメラを米国から空輸、スキャニングから仕上げまでを4Kで行い、フィルムの持つパフォーマンスを最大限に生かしたのである。

先端のデジタル技術と昔から変わらない最高のアナログ技術との融合にこだわり、映画の根幹となる高い映像表現に成功している。

本物の「たたら吹き」へのこだわり

千年、錆びない日本刀を生み出す玉鋼を造るという秘伝の製鉄技術「たたら吹き」。物語の主人公の伍介は、古代の製鉄技法「たたら吹き」を司る村下(むらげ)の後継者という設定で描かれる。

この「たたら吹き」は、1300年以上前から日本に伝わる伝統技法で、現代の世においても、唯一奥出雲で毎年1月下旬から2月上旬にかけ日本美術刀剣保存協会によって操業が続けられている。

「たたら吹き」によって生まれる玉鋼(たまはがね)は、純鉄として最高レベルのもので現在の最先端の技術を持ってしても、この精度の鉄を作り出すことは難しいと言われている。繊細かつしなやかであることから世界で高い評価を受ける日本刀は、玉鋼が無ければ造ることはできないというのである。

本作の撮影にあたり、日本美術刀剣保存協会、日立金属の全面協力のもと、オープンセット内に再現された高殿(たかどの)で、現代の村下、木原氏の監修のもと実際に地下構造までを造り、中世の「たたら吹き」を再現しての撮影を実現させ、たたら炉に燃えるリアルな炎の色や動きをフィルムに収めている。ここにも本物を求めこだわっている。